農業経営/阿部梨園の知恵袋

社会保険完備!と、それまでの長い道のり

胸を張って報告したいことがあります。この度、阿部梨園は社会保険完備になりました!健康保険と厚生年金、なんと個人事業の農業では適用除外なので、法律上の義務ではありません。任意加入です。法人企業にとっては当前ですが、(普通の)農家にとっては当たり前ではない大変なことなのです。

このチームで何かを成し遂げるためには、組織としての熟成が不可欠です。そのために最優先なのは従業員の待遇改善だと、常日頃から進言してきました。スタッフ第一を有言実行する阿部の決意が、こうして一つずつカタチになってきています。佐川も個人的に、今まで阿部梨園が達成してきた変革の中でも、最も誇らしく思っています。

阿部梨園は、法令遵守に取り組みながら、チームとしての熟成を目指し、おいしい梨作りに邁進することをお約束します。

いい機会なので、労務整備の足どりをまとめてみました。公にするには恥ずかしい部分も多々ありますが、これまで足りなかったことに目を留めるのではなく、不足を認めて前進する姿勢を汲みとっていただければと。また、これから起業したい方、経営改善したい農家の方の一助になったらいいなと思います。


(〜’14/08)家族経営期

従業員は家族中心、補助としてのパートタイマーのみ。時間x時給の計算以外はほぼ何もしていなかった頃。条件や待遇、法令遵守度は最低(以下)ラインです。


(’14/08〜)正従業員初登用期

技術を覚えたスタッフが阿部梨園を離れる事例が続いた頃です。
何とか打破するべく、とりあえず通年雇用の正従業員を雇う決意をしました。

正従業員雇用(’14/08)

労働季節性ゆえに通年雇用が難しいという、農業界が抱える問題と向き合うようになりました。超ラッキーなのは、応募してくれた青年が、後にエースとなってくれる素晴らしい人材だったことです。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★★★☆☆
  • 事務難易度が低いのは、当時、従業員を雇うために必要な法令遵守などは何も考えていなかったためです
  • 冬の仕事、雨の日の仕事などを工面するのに今でも苦労しています

労災保険(’14/08)

従業員5人以上の場合、個人経営であっても法律で義務付けられています。
ハローワークで求人を出すに際し、必須条件だったので加入。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★☆☆☆☆
  • 事務手続き、計算も簡単
  • 保険料率も低いです

(’15/01〜)佐川入職期

佐川が従業員として加わりました。事業リスク回避と、自分の労働環境向上のために、最低限の法令遵守からとりかかります。
素人なりに勉強しながらでしたが、いま振り返れば拙さも散見されます。

源泉徴収(’15/01)

なぜか今までは家族専従者分しかやってませんでした。超ヤバイので即導入。

事務難易度 ★★☆☆☆
必要コスト ☆☆☆☆☆
  • 控除などをやりだすと、結局は給与計算をちゃんとすることになります
  • 源泉徴収票の発行や年末調整とワンセットです
  • 徴収代行だけなので、事業主負担はありません

雇用保険(’15/01)

従業員5人以上の場合、個人経営であっても法律で義務付けられています。退職後に従業員に利益が還元されるというのはなんとも皮肉だなと、初めて雇用側の立場に立って実感しました。

事務難易度 ★★☆☆☆
必要コスト ★★☆☆☆
  • 本人負担分(天引き)があるだけ、労災保険より一手間かかります

給与明細(’15/01)

それまでは現金手渡しの封筒に額面が書いてあるだけでした。雇用保険や源泉徴収などの天引きが発生したので、明細が必要になりました。

事務難易度 ★★★☆☆
必要コスト ☆☆☆☆☆
  • 勤怠記録から給与明細まで一気通貫の、いけてるエクセルシートを作って駆使していました。

有給休暇(’15/01)

週休0日の農家にとって、有給休暇とは解せない制度だったかもしれません。しかしながら労基法に基づいて導入。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★★☆☆☆
  • 名ばかり制度でも意味ないので、積極的な有休消化を勧奨しています。

法定三帳簿(’15/01)

労働者名簿、賃金台帳、出勤簿になります。法規されているというよりも、これなしでどうやって管理できるんだ、という必須帳簿です。

事務難易度 ★★☆☆☆
必要コスト ☆☆☆☆☆
  • 当初はエクセルでポチポチやってました。

(’15/04〜)パートタイマー増員期

前年の主力メンバー流出に伴い、新人を迎えてチーム作りする必要がありました。併せていくつかの制度改善を導入しています。

通勤手当(’15/04)

雇用時の匙加減で適当に決めていた通勤手当を制度化しました。このタイミングでパートタイマーにも導入しています。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★☆☆☆☆

シフト表(’15/04)

口頭ベースでやりとりしていた出勤日を、一ヶ月単位で見通せるようにしました。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ☆☆☆☆☆
  • スタッフ同士で、いつ誰が出勤するかを把握し合うことも、チーム作りには必須でした。

役職手当(’15/06)

少額ですが、「役割/責任」と「報酬」を連動しようという取り組みです。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★☆☆☆☆

健康診断(’15/06)

労働安全衛生法で定められています。お互い安心して働きたいですよね。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★☆☆☆☆

年末調整(’15/12)

初めてだったので、なかなか手こずりました。年末だけで何とかするものではなく、通年で取り組むものだと学びました。

事務難易度 ★★★☆☆
必要コスト ☆☆☆☆☆

(’16/01〜)改善2年目

1年目は、極小のコストで改善できることから取り組みました。2年目は、前年の利益を予算に充てて改善しています。

時間外手当(’16/01)

これも農業は適用除外です。ただそれは労働者にとっては関係のない話であって、きちんと対価を支払うことに決めました。

事務難易度 ★★☆☆☆
必要コスト ★★☆☆☆
  • 時間外労働に頼らないための工夫も促されます。
  • とはいえ繁忙期は頼らざるをえないので、コスト増です
  • 時間外勤務時間を詳細に記録する必要が出ました

祝日休(’16/01)

こちらは佐川のみです。外出したり、勉強時間を確保することで、いくらかでも業務に還元したいと思います。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★★☆☆☆
  • 勤務時間が減る分だけ、生産性を高める責任も感じています。

給与計算ソフト(’16/01)

給与計算は全て佐川がエクセルを駆使して片付けていましたが、保守性や拡張性に限界があるので、クラウド給与計算サービスを導入しました。間違えていないか常に不安だったのですが、開放されました。

事務難易度 ★★☆☆☆
必要コスト ★☆☆☆☆
  • 上記の面倒くさい給与計算や手続きの、大部分が一掃されました
  • 一部、阿部梨園の実情と、給与計算サービスの機能が合わない部分もあります

月給制(’16/01)

日給月給制という、いまいち必然性のよくわからない制度だったので、月給制に移行しました。月ごとの変動が緩和されて従業員としては安心です。

事務難易度 ★★☆☆☆
必要コスト ★★☆☆☆
  • 休みの日の属性をきちんと把握する必要が生まれます
  • 事業主都合の休みにも給与を支払うので、コストがかかります

定期昇給(’16/01)

評価⇔報酬⇔成長のサイクルを確立するために導入しました。定期面談や評価制度とも連動しています。事業主側の匙加減ではなく、制度化して、それに基いて平等に評価されるのが、公平な給与体系だと思います。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★☆☆☆☆
  • 毎回必ず昇給すると期待されてしまうと、ちょっと辛い
  • それが成長を促し成果に繋がると信じるなら、導入する価値があります

給与振込(’16/01)

それまでは現金手渡しです。

  1. 現金を下ろして各人分を配分する手間
  2. 一人ずつ手渡す手間
  3. 受け取った側が銀行に入金する手間
  4. 給与明細控をやり取りする手間(現金取引の証明)

上記の工数を削減するために導入しました。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ★☆☆☆☆
  • 個人事業では総合振込や給与振込みサービスを使える銀行が少ないのが残念です
  • 振込手数料の少額なネットバンクを開設して対応しています

社会保険(’16/04)

労働者側としては、ようやく生きている心地がします。国民健康保険と国民年金では、正従業員と言っても実際には、巷の派遣社員や契約社員よりも、それこそフルのフリーターよりも厳しい条件です。また、事業者側としては15%賃上げに相当するので、本当に大変な負担です。

事務難易度 ★★★☆☆
必要コスト ★★★★☆

特別徴収(’16/06)

所得税の源泉徴収とほぼ一緒です。

事務難易度 ★☆☆☆☆
必要コスト ☆☆☆☆☆

これから導入したいこと

  • 賞与
    • 支給実績はあります
    • 評価や業績と連動させる、という意味では未整備です
  • 各種手当
    • 月給(時給)に反映されているので、別に必須と思っているわけではありません
    • 住宅手当や家族手当などは基本装備だと思うので、いずれ整えたいです
    • 従業員の生活に応じた保証、というのは大切だと思いました
  • 退職金
    • 雇用保険と一緒のパラドックスですが、退職後や老後に不安を残したまま働くのはしんどいと思っています
    • 積立てや運用などの知見が全くないので、そのうち勉強します

つい長くなりましたが、最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございます。1年半で残り3つって結構頑張ったんじゃないかなと思っています。

書いた人について

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Tomohiko Sagawa

阿部梨園の司令塔。代表の右腕。経営管理、企画、PR、デザイン、バックオフィス全てを担当しています。